コーヒー豆について

ノイズキャンセリングという、引き算の発想。
シツジ珈琲のコーヒー豆が「まろやか」で「飲みやすい」と感じられる理由を、じっくりお話しします。
甘みは、最初からそこにある
コーヒーの味わいの中心は「甘み」にあると、私たちは考えています。
甘みがしっかりと感じられるコーヒーは、苦味を柔らかく包み込み、酸味を尖らせず、味全体を自然に調和させます。なめらかな口当たり。食欲をそそる甘い香り。「まろやか」と感じるあの感覚の正体は、実は甘みなのです。
しかし、その甘みは簡単には現れません。コーヒーには、甘みを覆い隠してしまう要素が多く存在するからです。過度な苦味、刺すような渋み、鋭い酸味——。
私たちはこれらを「ノイズ」と呼んでいます。
コーヒーの「ノイズ」とは何か
ノイズキャンセリングヘッドホンを思い浮かべてみてください。
あのヘッドホンは、音楽に何かを足しているわけではありません。周囲の雑音を消しているだけです。雑音が消えた結果、もともとそこにあった音楽が、純粋に耳に届く。
コーヒーも同じです。
コーヒー豆には、甘み、穏やかな酸味、豊かな香り、深いコクなど、味を豊かにする成分がたくさん含まれています。けれど同時に、渋み、えぐみ、刺激的な酸味、重い苦味など、味を濁らせる成分も含まれています。
一般的なコーヒーでは、この「良い成分」と「ノイズ」が混在した状態でカップに届きます。甘みは確かにそこにあるのですが、ノイズに覆い隠されて感じにくくなっている。
だから、多くの人がコーヒーに砂糖やミルクを入れるのかもしれません。ノイズを和らげるために。

ノイズの正体を、もう少し詳しく
コーヒー豆の約70%は水に溶けない繊維(セルロース)です。残りの約30%が水に溶ける成分で、この水溶性成分が「味」になります。
この30%を、味への影響で大きく二つに分けることができます。
味を豊かにする成分(=クリア)
有機酸(クエン酸、リンゴ酸など)は、コーヒーの明るさや輪郭を生みます。糖類やメイラード反応生成物は、蜂蜜やキャラメルのような甘みの元。焙煎中に生まれる850種以上の芳香化合物がコーヒーの「香り」そのものをつくり、脂質がなめらかな口当たりを、メラノイジンがコクと深みを与えます。
味を損なう成分(=ノイズ)
タンニンは渋みや口を乾かすような収れん感の原因です。コーヒーに豊富なクロロゲン酸も擬似タンニンに分類されます。ミュンヘン工科大学のHofmann教授の研究で同定されたクロロゲン酸ラクトンやフェニルインダンは、重い苦味やえぐみの正体。そして焙煎後に進む酸化劣化によって、甘い香りが刺激的な化合物に変化していきます。

まろやかなコーヒーとは、クリア成分の比率が高く、ノイズ成分の比率が低い状態——私たちはこれを「クリアな味」と呼んでいます。
足し算ではなく、引き算
近年のコーヒーは、フレーバーや個性を「足していく」方向で進化してきました。強い酸味、特徴的な香り、個性的な味わい。それ自体は魅力的な世界です。
けれど私たちは、逆の道を選びました。
味を足すのではなく、甘みを邪魔するノイズを取り除く。生豆の選定から焙煎、保管、抽出に至るまで、味を濁らせる要素をひとつずつ排除していく。すると、コーヒー本来の甘みが自然に現れる。
ノイズを消した結果、もともとあった甘みがそのままカップに届く。
これが、私たちの「ノイズキャンセリングコーヒー」です。
なぜ「足し算」では甘みが感じにくくなるのか
近年のスペシャルティコーヒーでは、浅煎りが主流のひとつになっています。浅煎りには化学的にいくつかの特徴があります。
まず、クロロゲン酸が大量に残存します。生豆のクロロゲン酸は86mg/gで、浅煎りでは約50%が残ります。健康面では抗酸化作用がありますが、味覚面では擬似タンニンとして渋みの原因になります。
次に、有機酸も高濃度で残存します。「ブライト」「ヴァイブラント」と評価される酸味ですが、量が過剰だと鋭い刺激になります。
そしてメイラード反応やキャラメル化が不十分なため、甘みやコク、ボディの形成が弱くなります。
つまり、化学的に見ると「クリアな成分が不足し、ノイズ成分が過剰」な状態です。成分が多いこと=豊かなこと、という前提に立つのが足し算の価値観。私たちは、不要な成分を除くことで甘みを引き出す引き算の価値観を選びました。
焙煎で、ノイズを生まない

コーヒーのまろやかさは、焙煎の段階で大きく決まります。
私たちが行うサットヴァ・ローストでは、豆自身が持つ水分を焙煎の「道具」として活かします。焙煎初期に豆から生まれる蒸気を、排出しすぎずに釜内に保つ。すると蒸気が熱を穏やかに包み込むようにして豆全体に届け、表面だけが先に焦げる事態を防ぎます。
この穏やかな焙煎によって、甘みの元となる糖が安定して生成され、酸味が尖らず、味全体が自然に調和した状態に仕上がります。
サウナとスチームバスの違い
乾いたサウナは80〜90℃でも耐えられますが、蒸気のあるスチームバスは40℃でも熱く感じます。蒸気のほうが、穏やかに、でも確実に熱を届ける。サットヴァ・ローストの原理は、まさにこのスチームバスの熱伝達に近いのです。
サットヴァ・ローストの科学をもう少し詳しく
急激な焙煎で起きること
一般的な焙煎では、水分を「早く抜くべきもの」として扱います。強い火力で一気に水分を飛ばすと、釜内が乾燥し、豆表面の温度だけが急上昇します。内部にはまだ水分が残っているため、表面と内部の温度差が大きく開きます。
表面で反応が先行すると、酸味が鋭くなり、甘みが十分に形成されません。これが「刺激が強く、落ち着きのない味」の原因です。さらに急激な乾燥は豆に微細な亀裂を生み、揮発成分が逃げやすくなるため、劣化も早まります。
蒸気を活用する焙煎で起きること
水蒸気は空気よりも熱容量が約2倍大きい物質です。蒸気が存在する環境では、豆表面の急激な過熱が抑えられ、熱が穏やかに内部へ伝導します。表面と内部の温度差が小さく保たれることで、メイラード反応が豆全体で均一に進行します。
メイラード反応とは、糖とアミノ酸が熱で反応する化学反応で、コーヒーの甘み・香り・コクを生み出す中心的な反応です。温度140〜165℃で本格的に始まり、ナッツ、キャラメル、チョコレートなどの香気成分や、甘みの元となる成分が生成されます。
この反応が豆全体で安定して進むことで、糖の生成が安定し、酸味が穏やかに整い、味のバランスがとれた状態——私たちが「サットヴァ」と呼ぶ調和のとれた状態——に仕上がります。

保存安定性にも影響する
穏やかに焙煎された豆は構造が均一で、急激な亀裂が生じにくいため、揮発成分が安定し、風味の変化が穏やかです。一般的な焙煎豆と比べて、味のまとまりと香味の持続期間が長く保たれます。
抽出でも、ノイズを入れない

焙煎でノイズを消しても、抽出で新たなノイズを入れてしまっては意味がありません。
コーヒーを淹れるとき、湯が粉を通過するにつれて、溶け出す成分は変わっていきます。最初に出てくるのは酸味や甘み、香りなどの「良い成分」。時間が経つほど、渋みや重い苦味などの「ノイズ」が溶け出してきます。
一般的なドリップでは、必要な量の湯をすべて粉に通すため、後半のノイズも一緒にカップに入ります。
私たちのコーノ式かなざわ抽出法は違います。必要量の約1/3だけを粉から抽出し、甘みや香りが集中した「おいしい部分だけの濃縮液」を取り出します。残りはお湯で濃度を調整する。タンニンや渋みが溶け出す前に抽出を止めるので、ノイズがそもそもカップに入りません。

かなざわ抽出法の仕組みをもう少し詳しく
抽出の順序という科学的事実
コーヒー抽出では、水溶性の高い成分から順に溶け出します。初期(〜30秒)に有機酸が、前半(30秒〜2分)に糖類や香味成分が、中盤(2〜4分)に脂質やメラノイジンが溶出します。そして後半(4分〜)になって、タンニン、苦味アルカロイド、フェノール化合物など、味を重く渋くする成分が出てきます。
この順序は、ドリップでもエスプレッソでもフレンチプレスでも変わりません。違いは速度と圧力だけで、成分の溶出順は化学的に共通です。
1/3で止める理由
たとえば300mlのコーヒーをつくる場合、粉から抽出するのは約100ml。この段階では、酸味、甘み、香り、一部のボディ成分だけが溶け出しており、タンニンや重い苦味はまだほとんど溶出していません。つまり「コーヒーのおいしい部分だけを集めた濃縮液」が得られます。
この濃縮液にお湯を加えて適切な濃度に調整します。「薄くならないのか?」と思われるかもしれませんが、1/3の抽出液は通常のコーヒーよりずっと濃い。最終的な味の濃さは一般的なドリップと変わりません。違うのは味の質です。タンニンが入っているコーヒーと入っていないコーヒーでは、同じ濃さでも透明感がまるで違います。
KONO名門フィルター
かなざわ抽出法では、1973年にプロ用として開発されたコーノ式のフィルターを使います。このフィルターの最大の特徴は、リブ(溝)が下部1/3にしかないこと。上部2/3はフィルターが壁面に密着し、抽出中に生じる泡(アク)——酸化成分や雑味を含む——が横から流れ落ちるのを物理的にブロックします。
つまり、フィルターの構造そのものが、もうひとつのノイズキャンセリング装置として機能しているのです。

名門フィルタークラシック(2人用)

名門フィルタークラシック(4人用)
※いずれもシツジ珈琲の本サイトへ遷移します。
保管でも、ノイズを防ぐ

焙煎と抽出でノイズを取り除いても、保管の段階で酸化が進めば味は劣化します。焙煎豆は時間とともに、甘い香りの成分から先に失われていく——これも「ノイズが増える」ことと同じです。
私たちは生豆・焙煎豆の両方をEMBALANCE(エンバランス)素材で保管しています。この素材の還元作用によって酸化の進行を穏やかに抑え、焙煎したての香りと甘みをできるだけ長く保ちます。ピークフレーバーの持続期間は、通常の保管と比べて約1.5倍に延びることを確認しています。
カップに残るのは、コーヒーの味だけ
生豆の選定で、刺激の強すぎる豆を仕入れない。保管で、酸化による劣化を防ぐ。焙煎で、豆全体を穏やかに整える。抽出で、渋みや重い苦味をそもそも引き出さない。
こうして複数の工程でノイズを排除した結果、カップに残るのはコーヒーの味だけになります。
穏やかな酸味。自然に現れる甘み。透明感のある香り。なめらかな口当たり。それぞれの成分がバランスよく調和した、澄んだ味わい。
特別な成分が入っているのではありません。
不要な成分が入っていない。それだけのことです。
でも、「それだけのこと」を実現するために、生豆から一杯のカップに届くまでのすべての工程を設計しました。

ニュートラルイーブン製法™ 全7工程を見る
工程① 生豆の選定
刺激が過剰な品種・ロットを仕入れず、穏やかさを基準に選びます。カッピングスコアだけで判断せず、刺激が強すぎないことを確認しています。
工程② EMBALANCE保管(生豆)
還元作用を持つEMBALANCE素材で保管し、酸化劣化やカビ、風味抜けを防ぎます。豆本来の状態を穏やかに維持します。
工程③ ビィーンプリント・テクノロジー
周波数転写による結晶水のリセット。環境由来のノイズを取り除く工程です。
工程④ ひみつの工程
農薬成分等の外来ノイズを除去する非公開の工程。コーヒーそのものの自然力を引き上げます。
工程⑤ サットヴァ・ロースト
豆自身の水分から生まれる蒸気を活用し、穏やかな焙煎環境をつくります。メイラード反応が豆全体で均一に進行し、甘みが安定して生成されます。
工程⑥ EMBALANCE保管(焙煎豆)
焙煎後の酸化を抑制し、ピークフレーバーの持続期間を約1.5倍に延ばします。甘い香りの成分を保護します。
工程⑦ コーノ式かなざわ抽出法
抽出量を必要量の約1/3に制限し、甘みと香りの濃縮液だけを取り出します。タンニンや渋みが溶出する前に抽出を終了。残りはお湯で濃度を調整します。
まろやかさの理由
シツジ珈琲のコーヒーが「まろやか」で「飲みやすい」と感じていただけるとしたら、それは何かを足したからではなく、余計なものを取り除いたから。
コーヒー本来の甘みが、そのままあなたのカップに届いているのです。



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