コーノ式かなざわ抽出法
コーヒーの味は焙煎だけで決まるものではありません。どれほど丁寧に焙煎した豆であっても、抽出の段階で不要な成分を引き出してしまえば、味は崩れます。
抽出は「豆の中にあるものをすべて引き出す」工程ではありません。
必要な成分だけを取り出し、不要な成分は引き出さない工程です。
コーノ式かなざわ抽出法は、この「引き算の抽出」を実現するための方法です。
抽出の科学 ― 何が、どの順番で溶け出すか
抽出とは何か
コーヒー抽出とは、湯が粉を通過する過程で、コーヒー豆の中にある水溶性成分を水に溶かし出す化学プロセスです。
コーヒー豆の約70%は不溶性の繊維(セルロース)であり、水に溶けません。残りの約30%が水溶性成分で、このうち味として良い影響を与えるのは約20%程度とされています。残りの10%は、苦味や渋味など、味を損なう方向に働く成分です。
味の要素
良い20%(クリア成分)と悪い10%(ノイズ成分)がある。
いかにクリアを引き出し、ノイズを引き出さないかがポイント。
抽出の順序
コーヒー抽出では、湯が粉を通過するにつれて溶け出す成分が変化します。水溶性の高い成分から順に溶け出し、時間が経つほど重く溶けにくい成分が出てきます。
| 段階 | 溶け出す成分 | 味への影響 |
|---|---|---|
| 〜30秒 | 有機酸(クエン酸、リンゴ酸、クロロゲン酸) | 明るい酸味、フルーティーさ |
| 30秒〜1分 | 糖類、香味成分 (カラメル化で生じた甘味成分、芳香化合物) | 甘味、丸み、 コク、香りの複雑さ |
| 1〜2分 | 脂質、メラノイジン | ボディ、質感、深み |
| 2分〜 | タンニン、苦味アルカロイド、フェノール化合物 | 渋味、収れん感、 重い苦味、後味の重さ |
この順序は抽出方法(ドリップ、エスプレッソ、フレンチプレスなど)に関わらず共通です。違いは速度と圧力であり、成分が溶け出す順番そのものは変わりません。
なぜ順序が重要か
抽出初期に溶け出す成分(酸味、甘味、香り)は、コーヒーの味を豊かにする方向に働きます。一方、抽出後半に溶け出す成分(タンニン、重い苦味)は、味を重く、渋く、鈍くする方向に働きます。
つまり、抽出時間が長くなるほど、味は「足し算」的に重くなっていくのです。
一般的なドリップでは、必要量の湯をすべて粉に通します。この方法では、抽出前半の良い成分と後半の不要な成分が混在した液体がサーバーに落ちます。
おいしい成分は確かに入っている。でも同時に、タンニンや渋味成分も溶け出している。結果として、味にノイズが入ります。
タンニンという「ノイズ」
タンニンとは何か
タンニンはポリフェノールの一種で、植物が昆虫や動物から身を守るために生成する防御物質です。ワインの渋味、お茶の渋味も同じくタンニンによるものです。
コーヒーにおいてタンニンは、主に次のような味覚として感じられます。
- 渋味 ― 口の中を引き締める、乾くような感覚
- 収れん感 ― 舌や口腔粘膜がキュッとする感覚(赤ワインの渋味に似ています)
- 後味の重さ ― 飲み終わった後に残る重苦しい感覚
少量のタンニンは味に深みを与えることもありますが、抽出後半で大量に溶け出すと、コーヒー本来の酸味や甘味を覆い隠してしまいます。
一般的なドリップでなぜタンニンが出るか
一般的なドリップでは、粉に必要量の湯をすべて注ぎ、すべての湯を粉に通過させます。
抽出の初期〜前半では良い成分が溶け出しますが、次第に分子量の大きい成分=粉の中に残っている溶けにくい成分(タンニン、重い苦味、フェノール化合物)が溶け出し始めます。
結果として、サーバーに落ちた液体には、良い成分と不要な成分が混在しています。これが、一般的なドリップコーヒーに渋味や後味の重さがある理由です。
抽出における「ノイズ」
シツジ珈琲では、コーヒーの雑味や刺激を「ノイズ」と捉えています。
抽出においてはタンニンや重い苦味がまさにこの「ノイズ」にあたります。焙煎でノイズを消しても、抽出で新たなノイズを入れてしまっては意味がありません。
おいしいコーヒーの原則
抽出後半に多く溶け出すノイズ成分を落とさないこと
コーノ式フィルターの構造
コーノ式フィルターとは
コーノ式フィルターは、1925年創業の珈琲サイフオン社が開発した、世界初の円錐型フィルターです。1973年に発売された名門フィルターは、もともとプロ用として開発され、5年の開発期間を経て完成しました。
構造的特徴
コーノ式フィルターの最大の特徴は、リブ(溝)が下部1/3にしかないことです。
| 部位 | 構造 | 効果 |
|---|---|---|
| 上部2/3 | リブなし | 湿ったペーパーが壁面に密着する |
| 下部1/3 | リブ | ペーパーと壁面の間に空気の通り道を作り、抽出液の流出を安定させる |
| 底部 | 単一の小さな穴 | 抽出速度を制限し、粉と湯の接触時間を確保する |
上部でフィルターが密着する効果
抽出中、コーヒー層の表面には泡(アク)が生じます。この泡には酸化成分や雑味が含まれています。一般的なフィルターはリブが全面にあるため、ペーパーと壁面の間に隙間があり、この泡が横方向に流れてサーバーに落ちることがあります。
コーノ式では上部にリブがないため、フィルターが壁面に密着し、泡が横方向に逃げるのを物理的に防ぎます。抽出液は中央に集中し、下部のリブを通って底の穴からのみ流出します。
下部のリブの効果
下部にはリブがあるため、抽出液が詰まることなく安定して流出します。リブがなければフィルターが完全に密着して液が落ちなくなりますが、下部のリブがこの問題を防いでいます。
なぜこの構造が重要か
コーノ式の構造は、良い成分だけを通し、不要な成分を通さない物理的フィルターとして機能します。
泡(アク)には苦味や酸化成分が含まれており、これが液に混ざると味にノイズが入ります。コーノ式はこの泡を上部で物理的にブロックし、下部から澄んだ液体だけを通す設計です。
コーノ式フィルターの特徴
後半にかけて抽出されるノイズ成分を落とさない構造。
かなざわ抽出法
基本思想
コーノ式かなざわ抽出法の基本思想は一つです。
かなざわ抽出法の基本
コーヒーのおいしい部分だけを抽出し、残りはお湯で割る。
一般的なドリップでは、必要量の湯をすべて粉に通します。かなざわ抽出法では、必要量の約1/3だけを粉から抽出し、残りの2/3はお湯を加えて仕上げます。
これは一般的なドリップの「足し算」に対する、「引き算」の抽出です。
抽出量を1/3に制限する理由
例えば300mlのコーヒーを作る場合、粉から抽出するのは約100ml前後にとどめます。
この段階では、抽出の順序に従い、主に以下の成分が溶け出しています。
- 有機酸(明るい酸味)
- 糖類(甘味)
- 香味成分(香りの複雑さ)
- 一部の脂質(ボディ)
まだ抽出後半に入っていないため、以下の成分はほとんど溶け出していません。
- タンニン
- 重い苦味
- 渋味成分
- フェノール化合物
つまり、この段階の液体はコーヒーのおいしい部分(=クリア)だけを集めた濃縮液です。
残りを湯で割る理由
抽出した液体が約1/3量になった時点で抽出を終了し、残りの量は湯を加えて仕上げます。
| 一般的なドリップ | かなざわ抽出法 | |
|---|---|---|
| 方法 | 必要量の湯をすべて粉に通す | 必要な成分を抽出した後、湯で濃度を調整する |
| タンニン | 抽出後半で溶け出す | 抽出を途中で止めるため出ない |
| 渋味 | 出やすい | 出ない |
| 後味 | 重くて残りやすい | 甘めで、あとに残らない |
「薄くならないか?」という疑問
「1/3しか抽出しないなら薄くないか?」という疑問は当然生まれます。
答えは「No」です。
1/3の抽出液は通常のコーヒーより濃いのです。この濃縮液を湯で割って適切な濃度に調整しているだけであり、最終的な味の濃さは通常のドリップと変わりません。
違いは味の質です。同じ濃さでも、タンニンが入っているコーヒーと入っていないコーヒーでは、味の透明感がまったく異なります。
かなざわ抽出法で淹れたコーヒーの特徴
| 特徴 | 理由 |
|---|---|
| 渋味が少ない | タンニンの抽出を途中で止めているため |
| 後味が軽い | 重い苦味やフェノール化合物が入っていないため |
| 甘味が感じやすい | 渋味に覆い隠されず、糖類の甘味がそのまま感じられるため |
| 味の輪郭が整う | ノイズ成分がないため、各成分が明確に感じられる |
| 透明感がある | 濁りの原因となる成分(過抽出による微粒子やタンニン)が少ないため |
これらの特徴は、刺激が強すぎず、重すぎず、味が整い、調和している状態。まさにノイズキャンセリングコーヒーが目指す味わいそのものです。

名門フィルタークラシック(2人用)

名門フィルタークラシック(4人用)
※いずれもシツジ珈琲の本サイトへ遷移します。
ノイズキャンセリング・コーヒーの完成
ノイズキャンセリング・コーヒーは、複数の工程を経て完成します。抽出はその中でも最終工程に位置します。
| 工程 | 何のノイズを消すか | 方法 |
|---|---|---|
| 焙煎 | 豆の刺激成分 | 水分と湿度を活用し、豆全体を 均一に調和した状態へ導く |
| 抽出 | ノイズ(タンニン、渋味、重い苦味) | 抽出を1/3で止め、ノイズ成分を 引き出さないようにする |
科学的検証ノート(詳細を見る)
検証1:抽出初期に酸味と甘味が出て、後半にタンニンと苦味が出る → ✅
複数のコーヒー科学文献が同一の抽出順序を報告しています。初期に有機酸(クエン酸、リンゴ酸、クロロゲン酸)が溶出し、中盤で糖類と芳香化合物、後半でタンニンと苦味アルカロイドが溶出します。
検証2:抽出の最初の1/3に美味しい成分が集中する → ✅
Royal Coffeeの抽出実験では、抽出開始から約1分間にTDS(総溶解固形分)のピークがあり、風味の記述子もこの時点で最も多かったと報告されています。研究者は「実質的には濃縮液を作ってそれを希釈していた」と述べており、かなざわ抽出法の原理と実験結果が一致しています。
検証3:コーノ式フィルターのリブが泡の横流れを防ぐ → ✅
コーノ正規販売店の技術解説で、上部にリブがないことで泡に含まれる不要成分が横方向に流れるのを防ぎ、ペーパーの密着による二重のブロック効果があると説明されています。
検証4:湯で割っても味は薄くならない → ✅
抽出後に湯を加えることは濃度(strength)を変えますが、抽出率(yield)は変わりません。アメリカーノがエスプレッソと異なるのは濃度だけであり、抽出率は同一です。かなざわ抽出法は「薄い」のではなく「同じ抽出率で濃度を調整している」だけです。
検証5:コーノ式の抽出速度制限が味を安定させる → ✅
コーノ式フィルターは円錐型の中でも比較的遅い抽出速度を持ち、プアオーバーの技術差を吸収して安定した抽出を可能にします。特に甘味とボディに優れたカップが得られると評価されています。






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